調節性内斜視の検査と治療 |
Q 8歳の子供についてです。先日、学校のプール前検診にて「内斜位の疑い」とのことで受診したところ、調整麻痺剤を使っての検査で 裸眼視力、両目とも1.2 右 遠視 +4.5ジオプター 左 遠視 +5.0ジオプター で、眼鏡を作るよう言われました。内斜視とは言われませんでした。 去年も4月に受診したのですが、遠視が認められるが治療の必要なしとの診断でした(調整麻痺剤を使っての検査はしていません)。その後の視力検査でもA判定だったため、今回まで何もしていません。 眼鏡でピントを合わせる事により、遠視が治る事もあると期待したのですが、眼鏡は「その方が、本人が楽だから」との理由のようです。中程度の遠視であること、理解しております。 また、眼鏡用精査として、強い目薬(アトロピンだと思います)を事前に5日間、点眼し、精査後、二週間ほど、後遺症があるとも聞きました。授業等に支障があるため、夏休みを予定しています。 いくつかご意見を頂きたく、お願い致します。 ・8歳という年齢であると、眼鏡をかけても遠視が治る可能性はやはり低いのでしょうか。 ・可能性がない場合、裸眼視力が1.2あって、もやはり眼鏡は必要でしょうか。 ・その場合、アトロピンを用いての精査はやはり必要でしょうか。 よろしくお願いいたします。 A 調節性内斜視ですね。強い遠視があることで起こります。ぜひ眼鏡を作ってあげて下さい。 遠視というのは、眼球の奥行きが短い状態で起こります。ただし赤ちゃんの目はみんな遠視で、成長とともに徐々に大きくなり遠視は緩くなります。ただし、行き過ぎて近視になる人も多いです。 遠視も近視もない人間の目は、毛様筋がリラックスした状態で遠くに、毛様筋が収縮した状態で近くにピントが合います。近くのものを見るとき、毛様筋を収縮させピントを合わせる(「調節」といいます)と同時に、内直筋(目玉を内側に寄せる筋肉)が収縮して両目で近くのものが見えるよう(「輻輳」といいます)になります。 遠視の場合は、近くを見るときだけでなく遠くを見るときにさえ毛様筋を余計に収縮させなければならず、その結果、内直筋も余計に収縮してしまって内斜視の状態になります。これが調節性内斜視です。 完全にリラックスして遠くを見た状態から、どこまで近くにピントを合わせることが出来るかを数値で表したものを「調節力」といいます。調節力は年齢でほぼ決まっており、遠視近視は関係ありません。調節力は年々衰えて近くにピントが合わなくなってきます。これを「老眼」といいます。調節力が「10」の少年は遠くから10センチまでピントが合い、調節力が「2」の老眼初期の中年は遠くから50センチまでピントが合います。 8歳なら調節力は12ぐらいでしょうか。100÷12=8.33・・と計算して、遠視も近視もない場合は遠くから8センチまでピントを合わせることが出来ます。ところが5ジオプターの遠視があると、見える距離の範囲が5ジオプター分だけ目から離れて行きます。100÷(12-5)=14.28・・となり、遠くから14センチまでピントが合う計算になります。ただし無限遠より5ジオプター分だけ遠くが見えますが、それは世の中に存在しない距離なのです。5メートル先にはピントが合いますので、裸眼視力は良好です。 14センチから向こうが見えれば問題ないと思われるかもしれませんが、調節力が5を切ったら、つまり30才台で世の中すべてがピンボケになってしまいます。また、輻輳が5ジオプター分余計に働きますので、遠くを見ていても近くを見るように寄り目になります。寄り目になったら片目でしか見えません。また、5ジオプター分余計に毛様筋が働きますので、非常に疲れやすくなります。集中できなくなったり、落ち着きが無くなり、成績や対人関係にも影響します。 >・8歳という年齢であると、眼鏡をかけても遠視が治る可能性はやはり低いのでしょうか。 >・可能性がない場合、裸眼視力が1.2あっても、やはり眼鏡は必要でしょうか。 遠視を治す治療はしませんし、治せません。しかし体が成長する間に遠視は少し軽くなります。また眼鏡が必要な理由は上記の通りです。 >・その場合、アトロピンを用いての精査はやはり必要でしょうか。 眼科学の教科書にはそのように書かれていますし、眼科の勉強会でもそうすべきだと聞いています。正確な眼鏡を合わせるためには、アトロピンのような強い調節麻痺剤を使って正確な屈折度数を確認してその通りに作るべきでしょう。しかしお子さんの場合、裸眼視力は十分ですし、内斜視も常に現れているわけでは無さそうですので、弱い調節麻痺剤での検査を元に、本人が快適にかけられる度数を決定することで十分ではないかと思います。ですから、場合によっては処方する眼鏡が+4.5ジオプターより緩くなる可能性もあります。 例えばアトロピンで+6.0ジオプターのデータが出て、その度数の眼鏡を作ったら、近くがよく見えるのに遠くが見えにくい状態になる可能性があります。遠視の場合、たいてい調節緊張が合併しているからなのです。調節緊張は、自分自身で遠視を矯正しようとする反応で起こるものです。弱い調節麻痺剤で除去出来ない調節緊張(この場合、6-4.5で1.5ジオプターです)は、アトロピンで取り除いても点眼を中止すれば再び発生する可能性があります。それが発生している状態の目に対して、調節緊張を完全に取り除いた度数の眼鏡は、プラスの度数が強すぎるのです。ただし、我慢して眼鏡を常用することで、調節緊張は徐々に軽快し、遠くが見えるようになってきます。 つまり必ずしも遠視の完全矯正は必要ないということです。裸眼視力が良くて遠視の眼鏡をかけていない子供(つまり学校検診でひっかからないほとんどの子供)は、正視という訳ではありません。眼科に行かないから判らない、或いは、調節麻痺剤で検査しないから判らないのですが、実はほとんどが軽い遠視なのです。軽い遠視に眼鏡は必要ありません。強い遠視の子供に、少し緩めの遠視の眼鏡を処方して、軽い遠視の状態にすることに何の問題もないのです。ただし、内斜視が眼鏡によって消失することの確認は必要ですし、眼鏡に慣れてくると、遠視が進んだわけでもないのに遠視度数を上げる必要が出てくる場合もあります。アトロピンを使用した場合にはこういうことは少ないと思います。 アトロピン点眼時の見え方ですが、強い遠視のお子さんには少々酷ですでね。調節麻痺させるということは近くにピントを合わなくさせること、完全な老眼の状態を作ることなのです。正視の老眼は遠方が見えますが、遠視の老眼は100%ピンボケです。その状態で処方した眼鏡をかけると遠くは見えますので、眼鏡を嫌がることなく、かけることの習慣づけにはなると思います。点眼開始から眼鏡の完成までの辛抱です。ただし、さらに近くが見にくいことは点眼の効果が切れるまで続きます。 もしどうしてもアトロピンによる検査を受けたくないのであれば、もう一度お子さんを連れて再診し、「点眼開始から2週間以上も見えにくいのは可哀想で危険なので、その検査をせずに眼鏡の処方は出来ないのでしょうか?それから、なるべく早く眼鏡を使いたいので、夏休みを待たずに処方をお願いしたい」と提案してみてはどうでしょう。きっとその通りにしてくれると思いますよ。「それではだめです」と言われたら、従ってみるのも悪くはないと思いますが。 ★ご質問は河野眼科ホームページから |
by kounoganka
| 2012-05-19 14:22
| 視力・斜視
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